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第112号一流フレイト・フォワーダーと二流フレイト・フォワーダーの違い(2006年11月21日発行)

執筆者 石原 伸志
東海大学海洋学部航海学科国際物流専攻 教授
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 1974年 3月 早稲田大学商学部卒業
    • 2005年 12月 M倉庫株式会社退社
    • 2006年 4月 東海大学海洋学部航海学科国際物流教授
    所属学会
    • 2001年 5月 日本貿易学会
    • 2001年 6月 日本物流学会
    • 2003年 8月 日本港湾経済学会
    • 2004年 10月 アジア市場経済学会
    研究業績
    • 著書
      『貿易物流実務マニュアル』単著 05年2月 成山堂書店 376頁
      『貿易実務トラブル解決マニュアル』共著 06年5月 日本経済新聞社 400頁
    • 論文
      「国際複合一貫輸送から3PLへ」03年3月 日本貿易学会年報第40号
      「日系家電メーカーの国際物流におけるSCMの現状と今後の方向性について」 04年4月 日本貿易学会年報第41号
      「量販店の国際物流におけるSCMの現状と今後の方向性について」 04年5月 日本物流学会誌NO.12
      「フォワーダーからみた中国物流の現状と問題点」 05年 日本物流学会誌NO.13
      「量販店の事例に見るバイヤーズ・コンソリデーションに関する一考察」 06年5月日本貿易学会誌NO.43(掲載予定)
      「上海外高橋保税物流園区での一時保管業務に関する一考察」 06年 日本港湾経済学会報NO.44(掲載予定)

目次

はじめに

  1990年代前半までは、保管、輸・配送、通関などの業務を、安全かつ確実に提供できさえすれば、一流のフレイト・フォワーダー(貨物取扱人のこと。以下「物流企業」と同義語で使用」であった。しかし、成熟市場の中で、CS(Customer Satisfaction:顧客満足)の一環として、ロジスティクスやSCM(Supply Chain Management)が重視されている現代において、荷主がフレイト・フォワーダーに求めていることは、物流改善提案や最新情報の提供などのより高品質な物流サービスである。その結果、一流フレイト・フォワーダーと二流フレイト・フォワーダーのレベル格差が年々大きくなっている。
  30年間某物流企業にいた経験をベースに最近の物流業界をみていると、実質二流フレイト・フォワーダーであるにもかかわらず、過去の実績と名前だけで、自分たちは今でも一流フレイト・フォワーダーだと思い込んでいる物流企業が非常に多い。
  ここでは、一流フレイト・フォワーダーと二流フレイト・フォワーダーの違いについて考察してみたい。なお、これは、あくまで私見である旨、予めお断り申し上げる。

1.二流フレイト・フォワーダーとは、どのような企業か

  一流フレイト・フォワーダーと二流フレイト・フォワーダーの違いはどこにあるのだろうか。現代の一流フレイト・フォワーダーとは、戦略をもって時代を先読みし、荷主と同期化して全体最適なロジスティクスやSCMが構築できる物流企業のことである。これに対して、荷主から二流フレイト・フォワーダーとみなされているのは、下記のような物流企業である。
①企業戦略がなく、サービス内容も旧態然とした保管や輸送などの範疇から脱皮できていない企業。
②現場が弱く、何度でも同じミスを繰り返す企業。
③担当者が忙しすぎて、容易に捉まらない企業。また、担当者が不在の場合、フォローができていない企業。引継ぎやコールバックなどのメッセージが的確に伝わらない企業。
④企業研修や人材育成などがなされておらず、最新の情報収集や共有化及びノウハウの蓄積ができていない企業。
⑤担当者の思考が荷主サイドでなく、物流企業の立場(自分の都合)でしか判断できない企業。
⑥営業担当が滅多に来ない企業。また、来ても世間話しや旧態然とした御用聞きスタイルの営業しかできない企業。
⑦料金の値下げや接待のみで引き留めを図る企業。
⑧荷主からの問い合わせや依頼事項に関して、返事やレスポンスが遅い企業。
⑨電話応対が悪く、電話口でいつまでも平気で待たせる企業。また、電話をたらい回しにされたり、業務ごとに担当がわかれていて、的確な答えがタイムリーに返ってこない企業。
⑩書類が机の上に山積みにされていたり、時には床にまで書類が散在している企業。
⑪請求書が遅く、しかも請求漏れやミスが多い企業。
⑫最新情報の提供や改善提案などができない企業。
⑬レーサビリティーが重視されている現代において、適確な情報提供ができない企業。
⑭トップセールスができていない企業。
⑮適材適所の人事配置ができていない企業。
⑯業務が拡大しても組織の拡大がなされないために、既存荷主へのサービスが劣化している企業(従って、営業がザルになっている)。
⑰来客があっても、挨拶ができない企業

2.二流フレイト・フォワーダーの企業風土

  二流フレイト・フォワーダーの企業風土は、下記の通りであると推察される。
①企業戦略がないため、各スタッフが勝手に行動していること。
② 社員研修が形骸化し、人材育成やノウハウの蓄積ができていないこと。従って、社員層が薄く、旧態然とした範疇の業務しかできない。昔は物流に関する勉強だけでよかったが、昨今は貿易実務・経営戦略・マーケティング・統計学・会計学、生産管理など幅広い知識が要求されている。
③上司が特定のイエスマンばかりとのみ付き合い、都合の良いことしか耳に入らない裸の王様になっていること。最も性質が悪いのは、裸の王様になっているにもかかわらず、それに気がついていない場合である。
④取締役が部長、部長が課長の仕事しかできていないこと。
⑤ミスや間違いを報告すると上司がすぐに怒ること。これでは、誰も真実を報告しなくなる。また、実際にはミスが起きても徹底的に原因追及をしないで、パッチ当てでしか対応せず、とりあえず謝っておけば良いと思っている企業が多い。従って、何度でも同じトラブルを起こす。
⑥女性や派遣社員などの活用がうまくできていないこと。女性や派遣社員などをいかにうまく使うかも業務をスムーズにこなす上で重要なポイントになる。
⑦些細なことにまでいちいち指示を出す上司がいて、権限委譲ができていないこと。これでは率先して自分で考えて行動することをやめ、言われたこと意外はやらなくなるためスタッフが育たない。
⑧上司が勉強していないだけでなく、「営業は足で仕事をとることだ。理論では仕事がとれない。」と言って、理論家を潰してしまうこと。いまの荷主は勉強しているため、単に訪問しただけでは仕事はとれない。エクセレントな荷主が求めているのは、世間話をしに来る上司よりも荷主にとってプラスになる最新情報や改善提案を持ってくる担当者の方である。また、人間は自分のレベルに応じて判断の尺度が決まってくる。従って、上司のレベルが低いと、部下の真の評価や荷主ニーズの把握などもできないだけでなく、ノウハウや理論的裏付けがないため、KKD(感・経験・度胸)による判断しかできなくなる。
⑨上司が組織(責任者)を無視して、担当者に直接指示を出したり、報告を求めたりすること。これでは、無視された担当部署の責任者は面白くないし、言われた担当者も対処に苦慮してしまう。
⑩社員のモチベーションが下がっていること。給料を下げるために見せかけの成果主義が導入され、欠員が生じても補充がなされず、サービス残業ばかりが増加していること。社員のモチベーションを上げるために重要なことは、CSと並んでES(Employee Satisfaction)の向上を図ることである。
⑪コスト意識がなく、荷主にいわれるままに料金を下げ、接待だけでしか荷主の引止めができないこと。いまはGNP(義理・人情・プレゼント)だけの営業は通用しない。
⑫ 同業他社・協会・報道など外部との付き合いを嫌うこと。同業他社や官公庁の動きを把握し人脈を広げることは重要である。また、パブリシティーは有効的な宣伝手段である。
⑬人事が硬直化し適材適所の配置ができていないこと。特定部署に長くおくと、先入観によって思考がマンネリ化し、荷主ニーズや情報(料金・市場・同業他社の動きなど)の把握などができなくなる。今の時代に重要なことは、アンテナを鋭くして、荷主ニーズをいち早く的確に把握することである。
⑭何でも自分一人でやろうとすること。グローバル化した現代では、一社でシームレスなシステムを構築しようとしても、人材や資金面から無理が生じてくる。時には他社との連携によって、自社が有していなかったノウハウやネットワークを導入・補完することで、業務範囲も広がってくる。
⑮情報の共有化ができていないこと。今の荷主はよく勉強している。これに対抗していくためには、最新情報の収集と共有化がますます重要になっている。
⑯システム構築に関するノウハウを有していないこと。最新のロジスティクスやSCMを構築していく上で重要なことは、荷主の有している情報システムといかに低廉な費用と迅速性かつ容易にインターフェースできるシステムを有しているかである。
⑰調査や企画グループを軽視しがちなこと。同業他社・業界・荷主動向・市況などの分析ができていないと、迅速かつ的確な対応がとれない。
⑱組織や業務分担ができていないために、仕事を取ってきた営業担当が、書類・荷捌きなど全てを担当させられていること。従って、自分の首を絞めるような新しい仕事を積極的にとらなくなる。たとえ仕事をとっても忙しくなるため、既存荷主へのサービスが落ちる。逆に、大企業の場合、業務内容ごとに担当がわかれていて、荷主からみて誰に聞いて良いか分からない場合がある。このような場合、電話をたらい回しされ、レスポンスも遅くなる。(俗に「大企業病」と言われる)
⑲公平な人事評価ができていないこと。日頃の社内の付き合いに応じて人事評価をすると、ゴマスリや上司の顔を見てしか仕事をしなくなる。
⑳部門収支が悪いからといって、人員削減を行うこと。これでは、サービスがさらに落ち、収支はますます悪化する。

3.一流フレイト・フォワーダーとはどのような企業か

  筆者が考える一流フレイト・フォワーダーと二流フレイト・フォワーダーの差は、①戦略、②取扱い実績、③ノウハウの蓄積、④人材育成、⑤情報の共有化、⑥マーケティング力である。
  二流フレイト・フォワーダーにとって特に恐いことは、同業他社の動きや荷主の変化が読めず、過去の名前と実績だけで、今でも自分たちが一流だと思い込んでいる場合である。もっとも、見方を変えれば、同じ二流フレイト・フォワーダーであっても、付き合っている荷主のレベルによっても一流と二流の基準は異なってくる。例えば、40点レベルの荷主から見れば60点のフレイト・フォワーダーは一流だが、80点レベルの荷主から見れば二流ということになる。これが二流フレイト・フォワーダーを一流フレイト・フォワーダーと錯覚させている一因であるかも知れない。
  さらに恐いのは真の意味を理解せずに、ただロジスティクス、SCM、VMI(Vendor Managed Inventory)、JIT(Just in Time)、3PL(Third Party Logistics)、ロジスティクス・プロバイダー、ソリューションなどの横文字さえ使っていれば、自分たちも時代の最先端を行っていると錯覚しているフレイト・フォワーダーである。この原因は、①思考の硬直、②限られた範疇の人間とのみの付き合い、③勉強不足、④蛸壺に嵌り荷主や市場変化(ニーズ)が読めないでいる結果である。
  ローランド・ベルガーの遠藤社長によれば、現代の企業は、①エクセレントな企業、②グッドな企業、③普通の企業、④駄目な企業の四つに分類できるという。
  業界で俗に勝ち組といわれるエクセレント企業やグッド企業がいまフレイト・フォワーダーに求めていることは隷属関係ではなく、同期化して物流改善や最適物流の構築ができるパートナーとしての物流企業である。荷主も生き残るためには必死であり、時には物流子会社を切り捨てても、真の物流パートナーとの業務連携を望んでいる。昔はフレイト・フォワーダーから荷主にアプローチしていたが、いまは真の一流フレイト・フォワーダーには荷主の方からアプローチしてきている。
  そこで、フレイト・フォワーダーが荷主の信頼を勝ち得るために重要なことは、「荷主にどれだけメリットのある物流改善提案ができるか、また、その改善提案の根拠は何か、さらに、それがフレイト・フォワーダーにとってもどのようなメリットがあるのか」が、根拠(可視的)を持って提示できるかどうかである。よく「卵が先か、鶏が先か」の議論がなされるが、今の時代、明確なことは「鶏が先」である。
  従って、新規の一流荷主を獲得するために重要なことは、取扱い実績とノウハウの蓄積及び人材である。今は、昔のように業務を獲得してから荷主と一緒になってシステムを構築すれば良いという時代ではない。最近は荷主も余裕がないため、スピードとノウハウを求めている。だからこそ、安心して任せるために現在の実績を重視しているのである。二流フレイト・フォワーダーが張り子の虎でロジスティクス・コンペに参加しても、表面は誤魔化せても直ぐにボロがでる。物流企業は、コンペに参加したなら、オリンピックと違って、絶対に勝たねば意味がない。さらに、忘れてはならないことは、「物流業はサービス業」だということである。よく担当者が代わったらサービスが落ちたと言われ、失注することがある。それは、担当者も自分でとった仕事には愛着があるから十分なサービスの提供とフォローを行うが、引継いだ担当者には愛着がないため、得てしてサービスが落ちる。また、前の担当者と同じレベルのサービスを提供しているだけでは、荷主もサービスが落ちたと考えるからである。
  繰り返すが、重要なのはフレイト・フォワーダーとしての企業名ではなく、やはり優秀な担当者が一番だということである。そのためには、日頃からOJTや社外セミナーなどを通して社員を鍛え、レベルをあげ、裾野を広げ、情報の共有化(クレームや失注理由など)を図っておくことが重要である。優秀な人材を育成し、情報を共有化することで、海外を含めたどこの地域においても、同じレベルのサービス(金太郎飴のようにどこを切っても同じ絵が出てくる)提供が可能となり、荷主が要求している一気通貫による最適物流の構築ができる。
  また、情報の共有化であるが、これを阻害している要因の一つにe-Mailの普及があるのではないだろうか。時には、隣の同僚や上司にもe-Mailを入れることで情報の共有化が図られ、Mailを読んでいない奴が悪いという風潮がある。しかし、本当にそうだろうか。時には隣の同僚や上司に口頭で報告することの方が確実・迅速であり、コミュニケーションも図られる。さらに、Mailでは紋きり調の文章も、電話することで微妙なニュアンスも伝わるのではないだろうか。
  以前は、業界単位での勝ち組と負け組がはっきりしていたが、今は業界内で勝ち組と負け組がはっきりしてきている。しかも、実績とノウハウが重視さている現代では、一度ついた企業格差を埋めることは至難の業である。
  一流フレイト・フォワーダーは二流荷主との取引は可能だが、二流フレイト・フォワーダーは一流荷主との取引はできない。

まとめ

  以上のことからも明らかなように、過去の名前や業績を有している企業、豊富な資金力や立派なITシステムを有している物流企業が必ずしも一流フレイト・フォワーダーというわけではない。突き詰めれば、一流フレイト・フォワーダーと二流フレイト・フォワーダーの違いは、ノウハウを有した優秀な人材をいかに多く抱えているかである。
  これからの物流業界は異業種からの参入がますます相次ぎ、競争が激化し、「知恵を出す物流企業」と「汗を流す物流企業」の二極に分解されてこよう。
  知恵を出す物流企業とは、一流フレイト・フォワーダーのことである。汗を流すことしかできない物流企業は、「値下げ」、「安さ」という武器以外何の手段も有していないため、最終的には企業収支を圧迫する。今後、二流フレイト・フォワーダーが生き残っていくために重要なことは、戦略を持ってノウハウを蓄積し、優秀な人材を育て、真の一流フレイト・フォワーダーへと脱皮していくことである。ITシステムの真似は簡単にできても、ノウハウの蓄積は一朝一夕にはできないからである。繰り返すが、「物流業はサービス業」である。最終的に、サービスを提供し物流改善を提案するのはITではなく、人間だということである。従って、そのような人間を多く抱え込んでいる物流企業ほど真の一流フレイト・フォワーダーであるといえよう。

以上



(C)2006 Shinji Ishihara & Sakata Warehouse, Inc.

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