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第106号効率的で環境にやさしいロジスティクスシステム(2006年8月24日発行)

執筆者 根本 敏則
一橋大学大学院 商学研究科 教授 工学博士
    執筆者略歴 ▼
  • 略歴
    • 昭和28年生まれ。
    • 昭和51年 東京工業大学工学部社会工学科卒業
    • 昭和57年 同大学理工学研究科社会工学  専攻博士課程満期退学
    • 昭和57年 東京工業大学工学部社会工学科助手
    • 昭和61年 福岡大学経済学部助教授
    • 平成元年 スウェーデン道路交通研究所客員研究員
    • 平成7年 フィリピン大学交通研究センター客員教授
    • 平成9年 一橋大学商学部教授
    • 平成14年 ブリティシュコロンビア大学交通研究センター客員研究員を経て現職
    著書
    • 『シティロジスティクス』(谷口、根本著、2001.1.20、森北出版)、他論文多数

*第11回 サカタグループ ワークショップ 講演をもとに編集

目次

前置き

  本日は、効率的で環境にやさしいロジスティクスシステムというタイトルで、お話しさせていただきます。お手元の資料は「経営戦略としてのロジスティクス」という大学院クラスでロジスティクスを勉強する学生のための教科書から抜粋したものです。教科書のサブタイトルは、“CLO(Chief Logistics Officer)の役割と課題“となっています。
  さて、今日のプレゼンテーションは、3つの部分から構成されております。
  ロジスティクスと環境問題にどのような接点があるのか簡単にお話し、環境問題解決の原則をご説明して、具体的な施策事例ということで近年取り入れられている代表的な政策を紹介します。
  環境問題というのは、企業単独ではなかなか解決できません。公害問題に代表されるような外部不経済問題というのは、市場の中での取引でうまく解決できないので外部というわけですが、やはり政府が何らかの枠組みをつくって問題を解決していかないといけないので、施策がよってたつ理論、原則が必要になってきます。

1.ロジスティクスと環境問題

  さて、環境問題には、地球環境問題と局地環境問題があります。以前日本ではNOxやSPM等が問題になり、一部の地方では訴訟がおき、国や阪神道路公団が訴訟で負けるということもありました。その結果、局地環境問題はだいぶ改善されてきましたが、地球環境問題はなかなか解決の手段がなく、京都議定書の約束をどうやって守るのかということで、政府も本格的に取り組み始めたところです。
  我々はとかく物流に起因する環境問題を考える時、トラック輸送の方にばかりに目が行きますが、ロジスティクスあるいはSCMのように最適化を考える範囲を広げて捉えることが必要です。民間事業者はトラック輸送と在庫管理を合計した費用を最小化しようとか、サプライチェーン全体で費用を最小化しようとかするわけですが、環境問題も全く同じことで、政府はトラック輸送に伴う環境負荷だけ最小化してもあまり意味がありません。もう少し全体を見渡して、環境負荷の少ない仕組みに変えていくことが必要です。その意味からも、ロジスティクス全体からの環境負荷を小さくするという観点が大事になってきました。
  政府が発表しているCO2関係の資料がたくさんありますが、国立環境研究所が出した資料によると、CO2全体の中で運輸部門が20%くらいを占めています。その20%の中の35%くらいを営業用トラックと自家用トラックが排出しています。全体から見れば、そんなにシェアが大きいわけではありませんが、なかなかこの部分は減らすことが難しいわけです。
  皆さんもどこかで聞かれている事と思いますが、我々の目標は日本全体で90年レベルと比較し6%削減するということです。運輸部門の削減というのは非常に難しく、90年に比べても17%増は避けられないだろう、17%増でも、他の部分でがんばれば何とか約束は守れるのではないかということになっています。そうはいっても90年から見て既に20%位増えています。様々な政策を展開していかないと、この約束が守れないということで、今、期待されている方法は、低公害車導入で2千万トン、渋滞対策・モーダルシフトで各1千万トン、合計4千万トンくらいは何とか物流関係で減らしたいということになっています。

2.環境問題解決の原則

(1)外部不経済の内部化と汚染者負担原則
  さて、環境問題解決の4つの原則について説明致します。
  まず、外部不経済の内部化、また、汚染者負担の原則という概念があります。外部不経済というのは、市場を通さないという意味で外部であり、悪影響ということで不経済という用語を使っています。
  因みに、外部経済とは好ましい影響のことを言います。外部経済の例としては、蜂蜜を採るために蜂を育てている養蜂業者と果樹園を経営している人が、お互いに生産量を増やせば相手に対してメリットを与えるようなケースがあります。
  外部不経済は、生産活動とか消費活動をしている間に、知らず知らずに第3者に対してマイナスの影響を及ぼす場合です。そのマイナスの影響を、生産する人、消費する人が自分の損得の計算に入れないので、自然に生産量、消費量が過大になってきます。相手にメリットがある場合は、相手のメリットを計算に入れない部分だけ計算量が過小になるのですが、外部不経済の場合は過大になってしまいます。ですから生産者・消費者に生産量を適正な量に減らしなさいということを理解させるために迷惑料を払ってもらう。そういう仕組みです。
  この外部不経済の内部化というのは、理屈としてはわかりやすいのですが、分配上の問題が出てきます。分配上の問題というのは、効率的であったとしても、負担やメリットが公平に分配されているとは限らないということです。公平性の判断が必要になります。
  OECDは汚染者負担の原則というものを打ち出しました。これも聞いたことがあるかもしれませんが、“Polluter Pay Principle”です。直訳すると汚染者支払いの原則です。汚染者は取り敢えず支払い者になって下さい。ただし、その方が全部負担をかぶる必要はなく社会全体で支えることになります。そういう意味で、汚染者が第1次的な負担者になりますが、次々に他の人に負担が転嫁されて、そして結果的に社会全体で公害等の少ない仕組みに変えていこうという考え方です。
  図で説明すると、縦軸に費用(便益)をとって、横軸に生産量をとると、需要曲線は左から右下に下がってきます。需要曲線というのは何かというと、この場合は交通ですが、交通をするときにどれだけ嬉しいかという嬉しさを表す曲線です。だんだん量が増えてくると嬉しさが減ってくるので右下がりです。それから費用曲線は右上がりになっていますが、これは供給曲線になります。だんだん生産量が増えていくと、少しずつ生産がしにくくなって費用が増えていくということで右上がりになります。
  これは私的限界費用。私的に負担する費用です。ところが生産に伴って公害が出るということで、社会的限界費用が付加されます。これがいってみれば公害の部分です。もし、公害に何の配慮もなされないと、この私的費用と私的便益がぶつかる場所(均衡点)で生産量は決まります。そうすると、社会的に見てデメリットが生じます。
  どのような事かと言いますと、例えばある交通量で交通1単位を消費するときにどれだけ嬉しいかというと、上の需要の線まで嬉しいことになります。そしてこの下の線まで費用がかかりますから、その差がネットで生み出される社会的な便益です。ところが交通量が多くなると、この赤い部分は私的には問題ないのですが、公害が発生する分だけマイナスが出てきてしまい困ったことになります。できれば、一番青い色を大きくする適正な交通量にしなければならないということです。人に迷惑をかけているということを、ピグー税を導入して気付かせ、交通量を減らそうというわけです。
  この部分は税金であり、トラック事業者から政府に移るのでトラック事業者の便益は減ったように見えますが、増えた税収で減税するとか他のいろいろな手当てをする事が出来ます。ピグー税は税収をあげるための方法ではなく、交通量を調節するためのものです。
  物流事業者は、一次的な負担者としてこの外部不経済に見合ったような形で混雑税、ないし環境税を払う。税収入は政府によってインフラの整備とか環境対策に回るかもしれませんし、物流事業者が一次的に負担しても運賃に転嫁され、あるいは荷主がそういったものを負担するということであれば商品価格に転嫁することになります。消費者に理解してもらい負担してもらうようになれば、社会全体として環境負荷の少ない仕組みに近づくということです。
  よく言われることに、トラック事業者というのは相対的に力が弱い。発言力が弱い。一次的に負担させられ、最終的にもその負担を転嫁できない、ということがあります。実際にどうなっているのか少し調べてみました。
  やはり基本的には価格は需要と供給の関係で決まると思います。バブルの頃は荷物が沢山あり、トラック事業者はとても対応ができなかった。そういう時には、ちゃんと運賃が上がりました。今は、どちらかといえば荷物の量が少し減り気味ということもあって、需給関係がトラック事業者に不利なようです。そういう状況では、燃料費の値上げもなかなか転嫁できないということでした。去年あたりはそうだったかも知れません。
  ただし、最近になって運賃は上がっています、時間はかかるかもしれませんが、じわじわっと転嫁されるわけです。トラック業界は決して一方的に不利な立場にあるというわけでないと思います。新規参入者もそれなりにあります。退出よりも新規参入が多いということは、そのマーケットを魅力的だと思って投資する人がいるということです。ですから、そういう意味では、この業界も競争的かなと私は思っています。
  社会全体でこういう環境にやさしい仕組みをつくっていくために、荷主の理解を得ていきたいわけですが、私は市場の力学で自然に荷主への転嫁も進むはずとの希望を持っているわけです。

ピグー税の考え方


(2)社会的責任論
  荷主からは社会的責任論ということで負担を分担するような考え方がでてきています。法律を守ればいいという話だけではなく、もう少し積極的に行動基準を説明し、株主・従業員・顧客・地域住民、そういう利害関係者の声を聞いて対応しようとしています。あるいは環境報告書等を積極的に出して情報を開示していく。いかに、環境に配慮した経営をしていくかということを、アピールしていくことが、ごく普通にされるようになっていると思います。
  社会的責任論が必要である1つの理由は、契約違反でない限りはいくら利益をあげてもいいということにはならないからです。というのは、契約書には書ききれない色々な「質」の問題とか「不確実性」の問題があるので、その時々で適切に判断し対応していかないと、長期的な信頼関係を維持できません。結果的に紳士的な対応が必要となります。
  よい評判があるということが、お互いの取引コストを安くします。インターネットでの取引がわっと広がらないのは、インターネットで出会う相手企業をそんなに信用できないからです。いろいろなところが「格付け」を始めています。評判の高い事業者と取引するということは、結局総取引コストが安くなる。そういうことをお互いにわかってきているのではないでしょうか。
  なるべく情報を開示した方が、結果的に得である。正直に申告したほうがよい。事故が起きてもその事故が起きたことを責めるのではなく、事故が起きたことを隠すことを責める。そういう風潮が出てきています。
  社会的責任論も、もう少しシステム化しなければいけません。社長の宣言で終わってはいけないということで、ISOで規定を何か作れないかというプロジェクトが今進んでいます。日本としてもISO化に賛成し協力し始めているところですし、それ以外にもいろいろな認証制度、環境にやさしい仕組みを取り入れている企業を認証するという制度がいろいろな形で出てきております。がんばったところを褒めていくということですが、もっと進んで優遇処置を講じる必要もあるでしょう。
  荷主が、ステイクホルダー、消費者・地域住民等の支持を得るために、環境報告書を作り積極的に情報を開示・報告するようになり、荷主と物流事業者の関係も影響を受け始めています。荷主は物流事業者に環境配慮を要請する必要がありますし、物流事業者も環境に配慮しているという取り組みをセールスするようになっているわけです。物流事業者が環境報告書を出しているケースもあります。
  ですから、政府の役割としては基盤整備ということで、環境報告書というのはどのような形で書けばいいのか。特に改正省エネ法が出てくる中で、いったい省エネ努力というものをどういうふうに書き込めばいいのか。どういう計画を作ればよいのか。どういうふうにモニタリングしていけばいいのか。そういったことに、政府がきちんとした、わかりやすいガイドラインをつくる責任があると思っています。
  先程の環境に配慮した経営をしている企業を褒めるという意味では、いろいろな取り組みがあります。環境ロジスティクス・データベースというものが国土交通省のホームページにあります。毎年、年度末に環境報告書を集めて物流に関する部分を中心に掲載しているデータベースです。トラック事業者では佐川急便、トナミ運輸、日本通運、日立物流の報告書がホームページ上にアップされています。このデータベース全部で128社登録されています。いろいろな項目が見られるようになっていますので、皆さんも当HPにアクセスしてみて、同業他社がどのようなアピールの仕方をしているのかということを、勉強されてはどうでしょうか。

(3)ライフサイクル(SCM)評価
  次はサプライチェーン全体で環境負荷を小さくしなければ意味がないという話しです。
  「トレードオフ」を理解いただくために、環境負荷の前にまず費用の話をしたいと思います。輸送回数を増やして、1回あたりの輸送をジャストインタイムで多頻度小口で配送すると輸送費は増えるけれども、在庫費は下がるし市場の変化に即応できます。全体のパフォーマンス評価ということでは、ロジスティクス費用は輸送費だけの削減だけではなく在庫費を含めて最小化しなければ意味ありません。
  同じようにロジスティクス費用が少し高かったとしても、製造費が節約できる。中国に行けば製造費は安い。それならば、製造費とロジスティクス費用からなる総生産費用が安くなるという話になります。更に、もし生産費が多少高くなっても、顧客満足度の高いような高付加価値の製品ができれば販売価格を上げることができます。結局、生産費が少しくらい高くても販売費が高ければ元がとれるというようなこともあると思います。
  そのような高付加価値製品へのシフトは大事なことです。なぜかというと、環境負荷を少なくしようと言ったときに、企業が成長してはいけないのかという単純な話があります。マーケットで評判の良い製品をどんどん送り込む企業があったとします。毎年毎年、生産量・売上が増える。そうしたら当然その企業が、企業活動の中で排出するCO2は毎年毎年増えていきます。その時にそれを、どうやって正当化できるか。私は正当化してもよいと思うのです。その正当化の論理は、付加価値あたりの環境負荷が低減していることだと思います。
  わかりやすく言うと、例えば100億円の売上がありました。それが200億円の売上になったとしても、環境負荷が前はCO2が100トンだったのが、150トンに抑えられた。そうすると、100億円分の100トンと200億円分の150トンだと、効率がよくなったということです。日本全体では、以前ほど経済は大きくなってはいきません。せいぜい1%~3%位の伸びでしょう。そういったときに、生産を拡大する企業もあるし、縮小する企業もあるでしょう。けれども、それぞれの企業が前の年よりも、付加価値あたりの環境負荷を少なくできれば、日本全体として環境負荷を減らすことができます。GDPはほとんど変わらないわけですから。
  もう少し具体的に言った方がよいかもしれません。中国に工場展開した場合、製造にかかる費用が安くなりました。それは、労賃が安いからです。この労賃が安いことが幸いして、全体のコストが下げられ価格を安くすることができました。同じ品質のものが安く買えるわけですから、消費者はメリットを受けますし、生産者も安く作ったものですから前よりは生産者の余剰も増えました。
  但し、このようなやり方でやっていくと環境負荷は増えます。例えばDVDの値段が半分になったとします。同じ価格でDVDのような製品を2台買えます。DVD1台の製造にかかるCO2が同じ位だとすれば、そういった安いものをどんどん輸入して販売し廃棄していると環境負荷は全体として増えていかざるを得ません。
  それに比べて、価格が上がる場合はどうでしょう。価格が上げられるのは、消費者に喜ばれるものをジャストインタイムでお届けするからです。車でも、売れ筋の人気の高い車は生産が追いつかなくて、何ヶ月も待ったりする。そのような車は値引きしないで売れます。値引きしないで売れるということは、生産者の余剰が大きいということです。消費者もその車を買うということで嬉しいわけです。消費者も生産者も高い値段がついても喜んでいる。しかも、高い車で売れるわけですから、同じ車一台あたりの製造にかかるCO2が同じだとすれば、付加価値あたりの環境負荷が小さくなってくるという理屈です。
  日本はこれからどんどん付加価値の高いものを作って、それによって環境負荷を減らすという仕組みを作っていかなければなりません。政府も毎年毎年、CO2を減らしなさいというような言い方をするのではなく、総付加価値で割り算していくような考え方のほうが分かり易いと思います。
  さて、今までお話した4つの原則のうち、外部経済の内部化、汚染者負担の原則というのは、こちらの図の右下に示す仕組みです。物流事業者が何か公害を出すとすれば、何とかそれを減らすような規制あるいは、税金等で考えていかなければいけない。汚染者がまず一次的に負担してください。
  しかし、それを支えるためには荷主の社会的責任論が出てこなければいけませんし、荷主には川上の荷主・川下の荷主がいてサプライチェーンを構成しているわけですが、全体でどういった負荷が生じているかをお互いに認識して、協力するという様な仕組みがないと、支えきれないということで、左上の仕組みが必要になります。
  これからお話する環境ロジスティクス・データベースとか、パブリック・プライベート・パートナーシップ、商取引の適正化、インターモーダル輸送というのは、その前の2つが右下の部分の具体的な例という様にご理解いただきたい。あとの2つは左の方の具体的な例です。

環境問題解決の原則と具体的施策例

3.ケーススタディ

(1)ロードプライシング
  ロードプライシングというのは、ロンドンで2003年から導入されている混雑課金です。非常に高額です。乗用車は8ポンド(1ポンドは約200円)、トラックは7ポンドですが、評判は概ねよく成功事例としてだんだん評価が定着していると思います。乗用車は確かに減り、減った分は公共交通に移っています。さすがにトラックは他にあまり代替手段がありませんから減っていません。ただしトラック事業者もみんながこの負担を嫌がっているかというとそうでもなく、速く走れる・止まる場所が見つかる・時間の信頼性が増した等、運びやすくなったことを評価する方も増えています。
  実は東京でも5年位前に、ロードプライシングを導入しようとして、ロンドンと先陣争いをしました。東京の場合は環境問題を解決する為のロードプライシングでした。ところが石原都知事が、ディーゼル排ガス除去装置の方に興味が移り、そちらの方は結構上手くいき、効果もあったので、相対的にロードプライシングの必要性がなくなってしまったのです。今はあまり熱心な取り組みはしていないと思います。東京では環境問題がかなり改善されてきたので、ロンドンのように混雑解消という打ち出し方をしないとロードプライシングの導入は難しいかもしれません。

(2)官民パートナーシップ(規制)
  ロンドンでこのような混雑課金の仕組みが取り入れられたということの背景事情として、普段から自治体単位で物流改善官民協力という仕組みがあるからなのです。固有名詞では「Freight Quality Partnerships」と言います。より一般的な用語で言うと「Public Private Partnerships」ということになります。これは、公共と民間事業者、地域住民等がラウンドテーブルでディスカッションをするということです。
  ヨーロッパでは自治体単位でいろいろな交通規制を導入しています。うちの街は夜間配送禁止、うちの市のこの地区は8トン車以上進入禁止、何時から何時までは駄目とか、午後は歩行者専用道路とか、そういったことを小さい自治体単位で行うので、物流事業者も大変です。その街だけに配達に行くわけではなく、回って行くわけですから規制がバラバラだと困ってしまいます。
  そこで物流事業者としてはなんとかして欲しい、なんとか解決したい。それならルールを決めましょう、ちゃんと静かに走ります。ルールを守りながら行いますので、夜も運ばせて下さいと。そういったことに地域の人も自分達の問題と捉え、話し合いに加わる。受荷主・発荷主にしても、きちんとルールを守ってやっていけば、地域の経済活性化になるわけなので、当然話し合うインセンティブはあります。
  そういうものを後押しする為に、国がベストプラクティスをデータベースにして公表しています。皆で地域の取り組みとして物流問題を話し合うということを行っています。こういった場の存在が、いろいろな規制等を導入する時に有効に働いているのです。
  欧米では土地利用が日本よりも純化しています。日本の場合は、準工業地域に代表される「何を建ててもいい」という割に自由な指定があります。ですから工場の跡地に大きなマンションが建てられます。準工業地域ですから隣に配送センターがあって大型トラックが出入りしても不思議ではありません。結果的に排気ガスの問題や交通事故の問題が生じます。後からきたマンションの住民も何でこうなっているのかと文句を言います。
  これは本来都市計画の問題です。都市計画上もう少しきちんと区分けする。そしてそれぞれをtraffic cell(細胞)の形にすることで、隣どうしは行き来出来ないようにします(一旦幹線道路に出ないと、その隣の区画に行けないという構造をtraffic cellと言います)。また、時間をきめ進入を規制する。それからパリ等では、大きなトラックは中心部に入れません。ですから郊外で大きなトラックから小さなトラックに積み替えをします。
  ヨーロッパは総重量40トン車が自由に走れるようにしましょうとEUで取り決めをしています。それぞれの国で車の規制がバラバラだと困るからです。因みに、日本は25トンです。そして大きな車で運ぶ所、小さな車に積み替え配送する所、メリハリをつける必要があります。
  また、高速道路の分担率がヨーロッパでは高いですが日本は低い。何故かというと、高速道路の料金が高いからです。高速道路を安くして、高速道路はたいてい市街地を避けてあるわけですから、環境負荷も少ない高速道路にトラックをシフトさせるということを考える必要があるわけです。こういった仕組みの導入にあっては、やはり地域の人達がどのように物流車両をコントロールするか相談する必要があります。課金というものを例に挙げましたが、やはり規制の方が具体的で分かり易いし、導入し易いということです。
  物流センターや物流施設も広域化しています。遅ればせながら、日本も大きなトラック・大規模なセンター・広域化といった方向で物流の仕組みも変化しているということです。その為に大型車がきちんと走るようなネットワークを作らなければいけませんし、市街地を守っていかなければなりません。郊外部に広域的な物流施設を作って、そこから中小型車で都市内の配送拠点に持っていくというような積み換えをするべきではないかと思います。
  具体的な例としては、コペンハーゲンに面白い制度があります。積載率が高ければ優遇しようと言うことでグリーン許可証を出しています。実施されているのはコペンハーゲンの旧市街地で道が細くて歩行者専用道路も入り組んでいるような地区です。18トン以下、車齢が8年以下、積載率が60%以上であれば、専用の駐車場を使わせてあげますというものです。商業施設が多いので、配達のトラックも結構多いわけです。そういうものに対して、積載率というものをキーにした規制が出てきています。
  これは、基本的にボランタリーな仕組みで、トラック事業者が積み荷目録を保管しておき、怪しいなと思ったら市役所の取り締まり担当が査察に行き、その書類を見られるというものです。取り締まり側が見に行きたいと思った時に、「見せて下さい」「はい。いいですよ」といった柔らかい仕組みにしました。ですから、規制・罰金のような堅い仕組みでなくても、地域の中で工夫しながらできるということです。

(3)商取引の適正化
  それから、商慣行の改善ということもテーマとしてあります。
  90年代に日米構造協議で、日本のマーケットは入りにくいではないか、それは日本が勝手に独特の商慣行を入れているからである、ということで、返品等いろいろな慣行について改善が求められました。確かに、日本の商慣行の中でいくつか問題があるということは分かっているのですが、ずっと残っているということはメリットもあるわけなのです。そのメリットとデメリットをきちんと比較しなければならないのは当然です。
  多頻度小口化・少ロット化の改善というのも、簡単なシミュレーションをすると一番削減効果が大きいということが分かっています。しかし、この多頻度小口によってマーケットでの競争力を得るというのは、やはり捨てられないという荷主さんの事情もあるわけですから、そことのバランスをとらなければいけません。
  単純に大ロット化ということを推し進めるというわけではありませんが、メーカーと卸売業との関係で考えると、大ロットで済むものは大ロットにしてもらえませんか、その場合は料金を下げてもいいですよ。といったような話し合いをするところも増えています。これは日用雑貨のメーカーですが、実際にこういった取り組みをして、大ロット化の成果を上手く分け合っています。
  それから、改正省エネ法。これは相当インパクトのある法律です。今年の4月に施行されました。荷主企業の場合、年間の輸送量が3000万トン㎞以上だと、省エネが義務づけられます。これは、支払輸送コスト年間7億円に相当します。どの程度なのかというと、10%弱が支払輸送コストだと、100億円以上の売上がある企業ということです。結構大きいですが、日本全体で考えればこれに該当する荷主企業は相当出てくると思います。
  該当企業が毎年計画を作って毎年報告しなければなりません。この荷主から輸送業務を受託しているトラック事業者、さらにそのトラック事業者の下請けとして実運送を担当するトラック事業者も情報をきちんと挙げていかないと、省エネ計画を作ったり報告をする事が出来なくなります。そういった意味では、大手の問題だというように考えるのは間違いであり、取引のあるところは小さくても関係してくる可能性があります。
  荷主も物流事業者も一体どのような方法で報告書を作ればいいのか困って勉強をしているところだと思います。この動向に暫く目が離せないと思っています。
  国土交通省の解説本には、このような例が出ています。もし自家用で運んでいたものを営業トラックにシフトするとどうなりますか? 58%CO2が減りますよと。自家用トラックの場合は積載率が低く、物流事業者の混載便で運べば積載率が上がりますから、その分だけトラックの利用台数が減ってCO2は半分に出来ます。

(4)インターモーダル輸送
  いろいろな支援制度ということでは、モーダルシフトに関する補助制度があります。私は、モーダルシフトと言わないで、敢えてインターモーダルと言っています。やはり両端末はトラックで運ばざるを得ないケースが多く、他のモードをどのように上手く使うかといった時に、積み換えが上手くいく、荷姿を変えないで上手くいくということが大事なのでシフトさせるのではなくて、モード間を上手く繋ぐというインターモーダル概念の方が適していると思います。
  国際輸送が増えている中で、例えば、上海から来るJR貨物の12’(フィート)コンテナを鉄の枠ではめて3本組み合わせて40’にして、海上コンテナとして輸送する方法もあります。上海から40’コンテナを持ってきて、門司港で3つにバラし、それぞれを例えば神戸・岡山・鳥栖にその1本ずつを運ぶということです。
  アメリカはアジアで作った物をコンテナ船で西海岸に運び、そこから東海岸の方に3000㎞、4000㎞もDouble Stackトレインで運んでいます。バンクーバー・シアトル・オークランド・ロサンジェルスの各港が競って荷物を取り合っています。
  ヨーロッパでは環境問題からインターモーダル輸送に関心が集まっています。普通インターモーダルという仕組みは、1000㎞以上でないとペイしないのですが、ヨーロッパでは工場が東の方に移っており集約化しています。そこで作ったものをヨーロッパ全体に運ぶ。これが言ってみればEU拡大の狙いなのです。ですからTrans European Networkという越境交通インフラ・プロジェクトが重要となります。
  日本は海に囲まれていますからインターモーダルとして、海路を使うのが当たり前です。中国は沿海部での開発余地が殆どなくなってきたので、これからは大陸内部に入っていきます。鉄道の利活用、沿岸海運、舟運の利用が求められます。
  500㎞・1000㎞程度であれば、やはりトラックとの組み合わせでしょう。日本は高速道路延長が8000㎞、韓国は2000㎞、中国では30000㎞を超えました。船も大分増えてきており、航路数が400から600へ、配船数が800から1100になっています。上海から直接日本の港には30港に行けます。
  ということは、日本のどこかの街と中国のあるどこかの街が、いろいろなルートで繋がる可能性があります。そのようなインターモーダルな仕組みを作っていくということは大事です。東アジアを準国内扱いで考えていくべきだろうというのは非常に面白い発想です。

4.まとめ

  最後にまとめに入りたいと思いますが、生産流通システム再編などを通じて、効率的で環境にやさしいロジスティクスが普及しつつあります。コストを安くすれば環境に良いということもなりますので、徐々に普及しつつあるとは思います。但し、更なる政策展開をしていく必要があるので、その為には、汚染者負担原則による外部不経済の内部化に関し対物流事業者に対して理解を求めていくことが必要ですし、対荷主に対しては、サプライチェーン全体を見渡して社会的責任を果たすべきではないかということを訴えていくことが必要なのではないかと思います。
私の発表は以上です。ありがとうございました。

以上



(C)2006 Tosinori Nemoto & Sakata Warehouse, Inc.

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