ロジスティクス・レビュー

第100号オリンパスロジテックス(株)とオリンパス(株)におけるSCM導入の実際について―顧客価値と事業価値のスパイラルアップを目指して―(2006年5月25日発行)

執筆者 酒井 路朗
オリンパスロジテックス株式会社 取締役 東京センター長
    執筆者略歴 ▼
  • 経歴 1971年上智大学外国語学部仏語科卒業後、オリンパス株式会社入社。
    海外営業部・貿易業務部・分析機事業部(米国駐在)を経、1994年帰国後、物流推進部にて海外・国内のロジスティクス関連業務に従事。
    中国生産展開に関する物流改革に参画。
    パーツの物流リードタイムを大幅に短縮するなどの成果をあげる。
    その後第17回全日本物流改善事例大会物流合理化努力賞受賞。
    さらに、オリンパスの国内倉庫15ヶ所の集約を企画し、2001年8月に実現。
    集約後の2002年2月にオリンパスロジテックス東京センターに出向。
    国内拠点集約は、社団法人日本ロジスティクスシステム協会の2003年度「ロジスティクス大賞」受賞(オリンパス株式会社・オリンパスロジテックス株式会社共同受賞)。
    現在:オリンパスロジテックス株式会社 取締役 東京センター長
       ロジスティクス経営士

目次

1.――オリンパスグループではカメラの生産のほとんどは中国で行っていると言うことですが、どのような管理を行っておりますでしょうか。

  デジタルカメラというのは浮き沈みが激しく、爆発的に売れたかと思うと、急激に売れなくなる消費財です。2年位前までは、市場に受け入れられた製品は寿命も長く販売総量が多かったのですが、現在では、一つのモデルの製品ライフサイクルが極端に短くなり、当然出荷総数も少なくなる傾向になってきています。これは、技術の急速な進歩と過当競争が原因で、家電メーカーも含めて約35社がデジタルカメラを作っています。銀塩カメラのメーカー数がかつて10数社であったことと比べるとそれがよく分かると思います。最近はサバイバルゲームとなり、撤退している会社も少しずつ出てきています。
  2005年5月までの一年間に、某量販店のデジタルカメラ全店販売台数ベストセラーの交代が7回あったとの報道があります。7回ということは一つのモデルが2ヶ月続かないということです。
  オリンパスではカメラ関係の生産の多くは、既に中国に移管されており、デジタルカメラはほとんどが中国生産です。銀塩カメラも同様です。これらの生産管理をするために、中国ではいち早くSAP社のシステムを導入しました。また、最近ERPの導入とは別に、市場動向に敏感に反応し、且つ、大幅な在庫削減を目指した「需給計画業務支援システム」を導入しました。これは最新市場動向を加味し、生産変動対応を高速でシミュレートする仕組みで、実際に在庫調整にかなりの成果を挙げつつあります。

2.――現在、日本でもERPの導入を進めていると聞いています。

  最初に、親会社のオリンパスについて話しをいたします。現在、オリンパスは1兆円企業を目指しています。その為には、事業変化に素早く対応出来る「変化対応力」が重要なキーワードになり、それを支えていくための情報基盤を整備しなければならないという方針から、SAP社のERPの導入を進めています。これは、中国でのSAP導入の単なる延長としてではなく、上記のキーワードを実現させるための全社的な取組みです。業務を効率化するだけでなく、ERPの導入を通じて、経営判断を素早く行うための情報のいわゆるグローバルなレベルでの「見える化」を目指しています。
  また、フレキシブルな顧客対応の必要性の面から考えると、一番象徴的な商品がデジタルカメラであると思います。昨年、オリンパスのデジタルカメラ事業が低迷したのは、市場の変化や顧客のニーズにマッチした商品が長期間出せなかったことが原因でした。それを何とか取り戻す為に、2006年2月から新たなコンセプトの新製品をかなりの頻度で投入しています。
  オリンパスの社長の菊川がよく言っているのは、顧客ニーズの急速な変化にフレキシブルに対応すると言うことです。その為には、営業系の基幹システムとグローバルな情報システムの統合が必要になってきます。顧客のニーズがあまりにも目まぐるしく変わるので、全分野に亘って徹底的に仕事の仕方を見直す、ということで大号令がかかり、3年くらい前からERPの導入に伴う全社的な業務改革プロジェクトを進めて来ました。これでゴールとは言えませんが、今年からかなりの新システムが稼動します。

3.――部品在庫はどのように管理していくのでしょうか。

  パーツの中で、「補修部品」というのがあります。オリンパスではかつて部品管理部という部署があり、そこが全分野の補修部品を管理していました。ところが、補修部品は販売中止後一定期間供給保証しなければならないという事情があり、あるモデルの生産を打ち切る時に、ついつい多目の部品を製造してしまう傾向がありました。その結果在庫がどんどん増え、膨大な不良在庫を築いてしまうという構図でした。
  然し、部品共通化の動きで、現行製品と重複するパーツが増加したという状況もあり、生産部品と補修部品とを別々に管理するのは非効率的であるということで、7・8年前に全て製造工場で管理するように変えました。結果としてこれは非常に良いことでした。
  他方、親会社がSAPを導入するにあたり、ロジテックスではSAPではなく、製品在庫管理システムとして新しいWMSの導入を進めています。そして、オリンパスグループの大多数の工場で生産部品・補修部品を問わず全てのパーツの管理を、ロジテックスの製品用WMSと同一のシステムで行うよう開発を進めています。ちなみに、その愛称はシリウス「Super Innovated Logistics Information Unifying System」と言います。

4.――ERPを導入することによって、どのような効果をねらいますか。

  やはり事業スピードでしょうね。最近オリンパスでは医療と映像事業が親会社から分社化したこともそうですし、SAPによって「見える化する」ということも同じ目的ですね。見え方も非常にたくさんあって、在庫がどこに多いのか・何故多いのか、在庫が少ないのはどこか・何故少ないのか等いろいろあります。また、物流の状態もどこのリードタイムが長いのか、或いはどの部分のコストが高いのか等です。そういったことをERP・SCMで全て素早く見えるようにするために、オリンパスの関係部署やロジテックスでも鋭意努力しています。また、その後それを使って何を行うかという点について、検討部分も多々あります。先ずはとにかく導入して、第2ステップはそれをどう使っていくかということです。私がよく言うのは、余りにも当然ですが、ERPを導入したらそれだけで最高のロジスティクスが完成する、というのは大間違いだということです。私はかつて宣伝業務も経験していますが、TVコマーシャルを打ってもその売上伸長効果がどの程度あったのかは、ほとんど明確になりません。それと似ていて、ERPを導入したことによりどのようなメリットが出ているか、とか、SCMを進めていってその評価はどう出ているか、さらには、その会社におけるロジスティクスはどの位のレベルになっているか、という指標は非常に難しいと思います。米国企業とのベンチマーキングを有償でやってくれる仕組みなど、いくつかありますし、研究もされていますが、なかなか決め手にはなっていないのではないかと思います。むしろ、他社との比較ではなく、自社で指標を決めて、その時系列的な変化を見ながら手を変え品を変えて、地道な改善を展開することが正道で近道か、と思います。

5.――物流で重視している評価指標は何でしょうか。

  私は、正攻法として取り敢えずは在庫回転期間と納期遵守率だと思います。物流費というのもありますが、販売額に比例して物流費は変化しますから、売上高対物流費比率ということになります。ですが、それぞれ所謂「風が吹いて桶屋が儲かる」的なところがあって、これだという指標はなかなか難しいと思います。「キャッシュギャップ」という指標もよいかもしれません。
  私が最も評価指標として重要だと思っているのは、「顧客希望納期遵守率」ですが、現実的には先ずは「回答納期遵守率」がいいのではないかと思います。回答納期というのは、顧客が求める納期があっても、それは無理なのでこの日でどうですかと、約束する納期ですね。つまりネゴシエーションの結果が回答納期・約束納期で、顧客はそれで了解した、ということす。約束した以上、守らなければ話にならないですね。ただ、これを把握するシステムを構築するには、結構種々の定義を決めていく必要があります。やや古いデータですが、米国のトップレベルの企業でも、この約束納期が大体97%だと言われています。なかなか良い数字だと思いますが、安全在庫を計算する時97%というのは、かなりの在庫レベルになります

6.――オリンパス(株)のSCM推進の主眼はカスタマー・サティスファクションが一番にあるということでしょうか。

  ロジスティクスの第一の目的がCSですから、当然それが一番です。オリンパスの1つの例として、昨年稼動した修理CRMシステムの構築があります。従来、ERPを導入する際は業務をERPに合わせなさいと言われて来ました。しかし、この構築プロジェクトでは全ての業務プロセスを「顧客視点」で行いました。つまり、顧客は何を求めているかを最も大切にしたのです。とかくメーカーは「製造者視点」からの脱却が難しいのですが、このときは徹底して顧客視点で業務プロセスを眺め、「これはお客様にとって価値がある」、「これはお客様にはあまり価値がないのではないか」と色分けしていきました。そして、お客様に価値のある業務は手厚く、そうでないものはシンプルにして業務を再整理しました。つまり、最近話題のSOA(Service Oriented Architecture)という手法で構築したのです。従来、とかく社内の業務効率化が優先されたシステム構築を、顧客視点で見直すことでシンプル化し、結果としてERPのアドオンも最小化することが出来ました。

7.――その他にはどのようなところに目を向けておりますか。

  私がいつも注視しているのは包装設計です。サプライチェーンを完成させる為にERPを導入したら、それだけでもうサプライチェーンは完成し、ロジスティクスが最適化される、という筈はないことは先に言いました。これが分かっているつもりでも、意外と分かっていない。理論を飛躍させて包装に矛先を向けてみます。SCMと包装とは全然関係ない、関係があるとは全く思いもよらないという経営者が中にはいるのではないでしょうか。しかし、輸出向け国内向けを問わず全ての包装の実態を見た時に、それに対してあまり考えていない会社、ちょっと見ただけでかなり無駄が出ている会社というのは、ロジスティクスが完成しているとは絶対に言えないですね。逆にそこまできちんと見ているとすると素晴らしい会社といえますし、ロジスティクスが最適化されている可能性がある、と私は思います。
  例えば、包装が過剰だったりすると、そこにコストを落とす思いもよらない余地があることになります。オリンパスの例では、最近薄く、小型化されたデジタルカメラで、これまでワンパレットに192台しか載らなかったものを、最小包装単位のカメラ化粧箱を圧縮して、包装を小さくすることで、256台載せる事が出来るようになりました。つまり、輸送効率が33%アップしたということになります。このような包装体積の圧縮は、航空・海上輸送を問わず、包装費・保管費の削減や運賃の削減、さらに環境面でも間違いなく好影響が出てきます。
  また、国際輸送では、海上輸送は確かに安いのですが、世界中の顧客ニーズを考えると、やはりスピードも大事なことです。航空輸送で高くなるところは体積を圧縮して輸送効率を上げる事である程度カバー出来ますし、グローバル在庫削減によるキャシュフロー経営に寄与できるし、また、顧客満足も獲得できる、ということで全体最適を目指すことが重要だと思います。デジタルカメラに限らず付加価値の高い商品については、包装資材の削減によって環境負荷に配慮しながらも、航空機による輸送がこれからは増えていくだろうと思います。

8.――SCMを推進していく中で、ロジテックスとしての数値目標はありますでしょうか。

  当然、クレーム件数減とか、物流子会社としての一定の目標値はありますが、オリンパスの風土には、子会社に対して物流費の削減の目標を課するということは今まで余りありませんでした。現在も顕著にはありませんが、ロジテックスでは、親会社から言われる前に率先して原価低減を考えて提案し、且つ実施してきています。現在の川崎の拠点に倉庫を集約してから、既に10億円以上のコスト削減効果を出しています。今後重要なことは、コスト削減ばかりを考えるのではなく、たとえコストは上がっても、今後考案されるであろう種々の「ニュービジネスモデル」に最適な、顧客が感激するような「物流サービスモデル」を提案し続け、商品売上を最高水準に押し上げることが、物流部門の使命と考えます。

――本日はありがとうございました。

以上



(C)2006 Michirou Sakai & Sakata Warehouse, Inc.


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